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最高裁判所第二小法廷 昭和54年(オ)1208号 判決 1981年9月11日

上告人

竹村繁三

上告人

竹村幾雄

上告人

竹村信雄

上告人

竹村道子

右四名訴訟代理人

高橋靖夫

被上告人

竹村稔

被上告人

竹村俊雄

右訴訟代理人

丸山英敏

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人高橋靖夫の上告理由第一について

判旨遺言無効確認の訴訟において原告である相続人に確認の利益があるか否かは、遺言の内容によつて定めれば足り、原告が受けた生前贈与等により原告の相続分がなくなるか否かは、将来における遺産分割の時に問題とされるべき事項であることにかんがみると、原則として右確認の利益の存否の判断においては考慮すべきものではないと解するのが相当である。右と同趣旨の原審の判断は正当であり、論旨は採用することができない。

同第二について

判旨原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、本件遺言無効確認の訴が固有必要的共同訴訟にあたらないとした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は、独自の見解に立つて原判決を非難するか、又は原判決の結論に影響を及ぼさない点を論難するものであつて、採用することができない。

同第三及び第四について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

同第五について

判旨同一の証書に二人の遺言が記載されている場合は、そのうちの一方に氏名を自書しない方式の違背があるときでも、右遺言は、民法九七五条により禁止された共同遺言にあたるものと解するのが相当である。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおりとする。

(栗本一夫 木下忠良 鹽野宜慶 宮﨑梧一)

上告代理人高橋靖夫の上告理由

第一 原判決は第一審判決が理由二において、原告らが特別受益者でその相続分が零であるか否かは、遺言無効確認の訴の利益の存否の判断に際して考慮されるべきではないと判示したのを認容したのは最高裁昭和四三年(オ)第六二七号、同四七年二月一五日第三小法廷判決の「原告がかかる確認を求めるにつき法律上の利益を有するときは適法」という判旨に違反し、民事訴訟法第二二五条に違反し、違法である。

(一) すなわち遺言無効確認の訴が認められるという右判決はその訴の許容要件として「遺言が有効であるとすればそれから生ずべき現在の特定の法律関係が存在しないことの確認を求めるものと解される場合」であることを示しているが

(二) 右の訴の要件が充足されるとしても、更に確認の訴の一般要件として確認判決を求める利益すなわち原告が特定の権利関係の存否について判決によつて即時に確定してもらう現実の法律上の利益または必要がなければならない。

(三) 即ち本件についていえば、本件遺言無効確認の趣旨が、被告らが遺言書記載の物件について所有権を有しないとの確認を求めるものであるとしても、原告らが右被告らの所有権不存在の確認を求める利益がなければならない。

(四) 右確認の利益は原告らが本件遺言書記載の物件について持分権を有することが先決事項であるから、同物件について原告らが持分権を有しないという被告らの主張、証明を無視して右原告らの持分権があるか否かを判断する必要がないという第一審ならびに原判決は違法である。

第二 原判決は第一審判決が理由中で遺言無効確認の訴である本件訴が固有または類似の必要的共同訴訟ではないと判示したのを認容したのは民事訴訟法第六二条を適用しない違法がある。

(一) この問題は前記確認の利益の問題とも関連するところであり、仮りに本件遺言が無効であるとの判決確定後別訴において原告らに相続分がない旨判決があれば本件遺言書記載の物件の所有権の帰属はどうなるのであるか。

原告らを除く共同相続人で再分配するというのであれば本件当事者以外の共同相続人も当事者として訴訟に加つていなければならないすじあいである。

けだし、原告らに本件物件上の相続分がないときには本件当事者以外の共同相続人と被告らとの間で更に遺言の効力について判決を求めることになり(原判決も判決の既判力の範囲は当事者限りといつている)その場合の判決内容の如何によつては本件についての判決と矛盾するおそれがあるからである。(本件当事者以外の共同相続人は現在のところ遣言書を有効視しているが、本件無効判決によつては別訴無効確認の訴を提起することが考えられる)

(二) 本件遺言無効確認の訴が遺言書記載の物件について被告らに所有権がないことの確認を求めるという訴として適法性が認められるならば、原告らは同遺言書記載の物件が分割前の相続財産として相続人全員の共有である(民八九八)ことを主張するものであることになるが、共有財産に属する権利に関する訴は固有必要的共同訴訟である。(菊井、村松・民事訴訟法Ⅰ、兼子・体系、三ケ月等通説)

第三 原判決が理由一の(二)(三)において、本件遺言を栄蔵とアサの共同遺言として無効である旨判示しているが、これは本件遺言書全文の趣旨を常識に反して誤解して解釈した違法がある。

すなわち、本件遺言書の第六項の「相続」という語は常識的に解釈すれば栄蔵が「相続登記」とか「名義変更」という意味で用いたものと解すべきである。

第四 原判決はさらに、同理由中において、「本件遺言書は、栄蔵がその主導の下に作成したものであるが、独断によるものではなく、栄蔵がアサに対し、右遺言書の内容を説明したうえその共同遺言者としてアサの名を記載するについてアサの承諾を得たものと認める」と判示し、且つその前置きとして、「本件遺言書を栄蔵がアサの意思にかかわりなく一人で作成したことを認めるべき証拠はない」旨摘示しているが、右摘示は控訴人竹村幾雄本人尋問調書四〇、四一項の記載を殊更無視して「証拠はない」としたものであつて、右「一人で作成した証拠はない」という判示には理由不備または理由齟齬がある。

第五 原判決は本件遺言書が共同遺言である根拠としてアサの承諾を得て、栄蔵がアサ名義の署名・押印を代行したものと認定し、同署名の代行によるアサの遺言という法律行為を認め、結局栄蔵とアサ分二人の遺言が含まれていると判示したのは遺言の方式を定めた民法第九六八条第一項に違反するものである。

けだし、かくては自筆証書遺言の遺言者の署名の代行も認められる結果を招くものと言わざるを得ないからである。

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